【“数字だけで語れない”保育の課題を考える】

「保育園落ちた日本死ね」。

子どもを保育所に預けらず、追い詰められた母親の怒りをつづったブログの投稿。メディアで取り上げられたことをきっかけに大きな反響を呼び、政府も重い腰を上げて緊急対策を実施するに至りました。

それにしても、「一億総活躍社会」をうたいながら、子どもを預けて働くことすらできない社会は「矛盾に満ちている」と言わざるをえません。

今の政治には、子育て世代の女性の声がいちばん届いていないと思っています。保育の課題を考えてみます。

●本当の「待機児童」の数は?

「待機児童の数をゼロ」に。政府がかねてから口にしていることばですが、実際のところ、待機児童の数はどのくらいなのでしょう?

厚生労働省によると、去年(平成27年)4月時点で2万3000人余りに上るということですが、この数字、実は氷山の一角とも言えるのです。

例えば、
▽希望の認可保育所に入れず、東京都の「認証保育所」など認可外の施設に入っているケース、
▽親が育児休業を延長しながら保育所が空くのを待っているケースなどは含まれていません。

こうした“潜在的”な待機児童は、去年4月時点で、およそ6万人もいるとみられ
ています。

ものごとを解決していくにはまず実態把握が大切なのに、待機児童問題は、それ
ができていないのが実情なのです。

●政府の緊急対策は?

今回の匿名ブログの反響を受けて、政府は待機児童に関する緊急対策を打ち出しました。急いで打ち出したものだったため、新たな予算措置を伴うものはなく、既存施設の規制を緩和したものが主でした。

例えば、
▽国の基準より、面積が広く、保育士も多く配置している自治体には、受け入れ枠の拡大を要請。
▽マンションの一室などを利用する「小規模保育所」について、定員の上限を19人から22人に拡大。さらに、本来なら3歳になるとほかの認可保育所などに転園しなければならないところを、3歳以降も受け入れ可能にする。
▽急用時に使う「一時預かり」を保育所が見つかるまでの間、定期利用も可能にする。

今回の対策をじっくり読むと、見えてくるのは、“とりあえず定員を増やそう”として
いることです。2つの課題があると思います。

●保育士の給与引き上げが必要

まず、何よりも問題なのは、保育士の給与引き上げに踏み込まなかったことです。数字上の待機児童の解消ばかりに目が向いて、保育士の労働条件を置き去りにしている感が強く残りました。

保育士の月給は平均で21万円、ほかの全産業の平均月給30万円と比べると、大幅に低くなっています。保育士の離職率が高く、保育士不足が問題になっているのもうなずけると思います。

現在、およそ40万人の保育士が働いている一方、70万人もの潜在保育士(資格を持ちながら働いていない人)がいると言われています。潜在保育士が現場に戻るには、労働条件の改善なくしてはありえません。

「おおさか維新の会」は、保育士の給与を段階的に引き上げ、5年後に、月額9万円上がるよう提言しました。財源は2500億円程度になります。

財源確保は難しいという指摘もあるかもしれませんが、そうは思いません。なぜなら、国は公共事業などに何兆円ものお金を使っているからです。それを、少し抑えて保育に2500億円を出せないはずはないと思います。政治的な判断をすれば実現可能で、それができないと言うのなら、子どもの価値をどう考えているのか、言わずもがなだと思います。

●保育の質はどうなる?

続いて、保育の質の問題をどこまで考えているのか、ということです。定員を増やすことによって、ただでさえ不足している保育士の負担は増え、保育の質が落ちることも懸念されます。

国は、待機児童の解消策として、企業の参入を進めようとしています。しかし、保育事業は人件費比率が7?8割と高いため、実は、企業にとっては、利益を求めるメリットが薄いのが実情です。それでも参入しようとすれば、人件費をできるだけ抑えて、そこから利益を求めようとすることになり、保育士の劣悪な労働条件と相まって保育の質の低下へとつながっていくのです。

企業の参入が一概に悪いとは思いませんが、企業が社会的貢献を認識しながら、保育の質を保っていく努力を続けているか、絶えずチェックする必要があると思います。

●安心して子供を預けられるように

保育所に預けている親のほとんどが働き、納税し、国の財産である子どもを生み育てています。保育サービスを充実させないで、この国の未来を、支えられるのでしょうか。親が安心して子どもを預けられるよう、政治は、真剣に考えていく必要があると思います。

政府は、5月にまとめる「1億総活躍プラン」に、保育士の待遇改善などを盛り込むとしています。どのような対策が盛り込まれるのか、しっかりチェックしていきたいと思います。